1972年の
ミュンヘンオリンピックでのテロ事件をもとにして製作されたもの。最後のシーンからもわかるように、この映画は、9.11に対する
アメリカの報復というのがメタ的に組み込まれている。物語としては、暗殺者であり、父親である主人公が、国家的
イデオロギーに従いながらも自らの行動に疑問を感じ、最後には、その
イデオロギーを捨て、家族の元へと返っていくという
スピルバーグの文法に従った
ヒューマニズムドラマといった感じ。一見すると、この映画では、たんに
イスラエル側の一方的な悲劇の物語というのではなく、他者の
パレスチナ人の視点にも巧みに配慮しているように見える。例えば、他者との
接触によって、その対立項が曖昧にさせるシーンもある。だが、視点ショットは常に主人公もしくは、
イスラエル側からだった(例えば一人目の
イスラエル人(ワエル・ズワイテル)の登場ときは、背後からシーンが始まる)。もちろん主人公の心理が、鏡などの映画技法によって、二重化されていることは言うまでもない。