「名前の神秘」

本年度初のブローグ。正月は神社の出店の短期バイト。俗に言うテキ屋。このテキ屋売店だけでなく、おみくじも販売している。このおみくじは「名前の神秘」というタイトルがつけられた、少し変ったおみくじである。普通の番号から大吉や凶などを引き当てるおみくじとは違ってこのおみくじは、板一面にそれぞれの名前が書いてあり、そのなかにある自分の名前をお客が探し、そこにある札をとっていくというシステム。例えば太郎という名前の人物はその平仮名順に並んだ名前の中から自分の名前〈太郎〉というところに刺さっている札を取るのである。このくじ引きは無人であるため自分の名前があれば100円を賽銭に入れるようになっている。このくじ引きは自分が取る札が必然的に決定されているという全く奇妙なくじ引き――くじ引きによって札を選ぶというシステムとは全く逆のシステム。ある太郎が自分の札を見つけて取っていくと、次の太郎がまたやってきて自分の名前〈太郎〉を探す。無くなった所に札を補充するのが僕の仕事。境内に三箇所設置されているため、一日中あちらこちらと札を挿しに回る。
この「名前の神秘」は決して姓名判断ではなく、単に名前があるというだけ。だからそこに刺さっている札も偶然に僕が挿したもの。だが参拝者はこのボードの前に立つと、とりあえず自分の名前を探す。しかも必ずといっていいほどお客は「絶対に自分の名前は無い」と言いながら探すのである。無いと思っていた自分の名前を見つけ出すとその札が自分にとって唯一の札であるかのように感じる――つまり自分の名前が両親から与えられた唯一のものであると考えるのと同じように、その自分の名前に挿されている札が自分にとって唯一の札であると考えるのである。だからこの札を僕がランダムに補充していると、大抵参拝者は奇妙な顔で僕の行動を見ている。自分の名前に刺さっている札は唯一自分の人生に合った札であろうと暗黙に信じているからであろう。だがやはり自分の名前の唯一性(あるいは自己の唯一性)のために、参拝者は僕の行動を横目に自分の名前を見つけ出そうとするのである。
これこそ「名前の神秘」!!
ちなみに一日の売り上げは三箇所合計でおよそ10万円(大晦日)。